子どもたちの現状

奨学金支援から見えてくる教育格差の実態

厚生労働省の報告書によると、日本の子ども(17歳以下)の貧困率は13.5%(2018年)です。例えば、ひとり親と子ども2人世帯で年収約210万円、月17万円未満で生活しています。

子どもの貧困問題は幼少期から高等教育まで幅広く、年齢や家庭の状況によって、虐待、食糧・住居支援、学習・居場所支援、進学支援など、必要とされる支援は多岐にわたります。この中で、認定NPOキッズドア基金は特に中高生の進学への経済的支援にフォーカスしています。

特に高校生世代は、児童手当の支給がなく、学費負担や部活・学校行事等の費用も生じ、大学進学を目指す場合は多大な費用がかかります。2020年度より、低所得世帯への大学授業料減免・給付奨学金(修学支援制度)制度が始まりました。しかし、「受験サポート奨学金」のアンケート調査では、塾代や受験料などの負担が重く、受験をあきらめる、受験校を1校にする、志望していない推薦入試を選ぶ、など進学において圧倒的に不利な状況にある実態がわかりました。

2020年受験サポート奨学金

高校生および保護者へのアンケートから

2020年受験サポート奨学金を支給した554人のうち、
  • 1人親世帯は83%
  • 年収が200万円未満の世帯が58%
  • 感染拡大による失業や大幅な減収があった世帯は34%
感染拡大による受験への影響については、親の収入が減るなどして、
  • 受験する大学数を減らした
  • 予備校や塾に通えなかった
  • 進学を諦めようと考えたことがある
と回答した高校生が、50%超となっています。
(2020受験サポート奨学金 報告書全文はこちら)
申込家庭の状況(高2生・高3生 合計606名)。一人親世帯の割合は83%。コロナ禍による大幅な減収もしくは失業した世帯は34%。世帯年収が200万円未満の家庭は58%、200~300万円の家庭は24%。申込みのあった都道府県は44都道府県。
経済的理由による受験への影響(高3生91人対象)のグラフ。受験する大学の数を減らした生徒、57%。予備校・塾に通えなかった生徒、49%。進学を諦めようと考えたことがある生徒、49%。受験費用のためにアルバイトをした生徒、47%。志望校を変更した生徒、38%。
経済的理由による受験への影響(保護者181人対象)のグラフ。塾・予備校に行かなかった、ないしは減らした生徒、54%。受験する大学の数を減らした生徒、50%。志望校を変更した生徒、37%。参考書・テキストを十分に買えなかった生徒、19%。模試を受けなかった、ないしは減らした生徒、13%。
高校3年生の受験勉強サポート奨学金の使い道を示した円グラフ。受験料、25%。参考書・テキスト代、17.9%。入学金、13%。交通費、12.2%。塾代、6.9%。文房具、6.9%。模試代、6.1%。生活費、5.3%。パソコンその他、6.5%。

高校生と保護者からの声

支援のおかげで、模試1回受験、総合型の受験費用と交通費、共通テストの費用に充てる事ができました。
(高校生)

予備校や塾などのプロのアドバイスや情報が入手できた人しか合格を勝ち取れないようなこの仕組みは、経済力がある人しか大学に進学できないことに繋がっていて、納得できない。
(高校生)

行きたい学校よりも受験料や学費を見て学校を選ばなければならず、不運だ。せめて「共通テスト」は無償にして欲しいです。
(高校生)

コロナの件もあったりで本当に心配の尽きない毎日でした。失職してしまい、時には何もかも嫌になり、この世から消えたいと思ったこともありました。どこかで誰かが私たちを応援してくれているんだ、そう思うだけで本当に心強く思えました。
(保護者)

学生支援機構の奨学金は入学金納付に間に合わないので、受験サポート奨学金を使わせていただきました。お金だけでなく、応援してくれているという気持ちが嬉しかった。
(保護者)

子供の夢を諦めさせようか迷いましたが、この奨学金のおかげで私も背中を押すことができました。子供の人生がここで変わりました。
(保護者)

教育と貧困の連鎖

マクロデータを見ると、低所得世帯は大学進学率が低く、学歴格差が雇用・所得格差を生み、貧困が連鎖している現実があります。特に女性でその傾向が顕著です。日本財団の調査によると、教育格差が解消した場合、1学年への支援だけでも、大卒者の増加や就業形態の改善によって生涯所得の合計額は2.9兆円、税・社会保障の純負担額が1.1兆円、正規職が9千人それぞれ増加すると推計しています。
子どもの貧困や教育格差の解消が社会・経済にとって大きなプラスであることが示されています。

高等教育進学率
(大学、短大、高専、専門学校)※2018年度

低所得家庭*40%VS全国平均82% *「高等教育の修学支援新制度」により、2020年度は約48〜51%
程度へ改善(文部科学省推計)。対象は住民税非課税世帯。
両親年収別の高校卒業後の進路の折れ線グラフ。出典は東京大学 大学経営・政策研究センターの「高校生の進路についての調査」より。横軸は年収、縦軸は人数。両親の年収が上がるほど子どもの4年制大学への進学率は上がり、逆に就職率は下がる。とくに両親の年収が200万円以下の場合、就職を選ぶ子どもの数は4年制大学に進学する子どもの数を上回る。
学歴別貧困率の折れ線グラフ(男性・2018年)。出典は阿部彩の「日本の相対的貧困率の動態:2019国民生活基礎調査を用いて」貧困統計 HPより。中卒の場合、30歳代は22.5%、40歳代は22.7%、50歳代は27.7%、60歳代は26.4%、70歳代は23.9%。高卒の場合、30歳代は11.6%、40歳代は14.9%、50歳代は12.1%、60歳代は14.5%、70歳代は15.5%。短大・高専の場合、30歳代は8.5%、40歳代は11.7%、50歳代は13%、60歳代は7.8%、70歳代は2.7%。大学以上の場合、30歳代は5.8%、40歳代は5.8%、50歳代は6.1%、60歳代は8.8%、70歳代は7.8%。
学歴別貧困率の折れ線グラフ(女性・2018年)。出典は阿部彩の「日本の相対的貧困率の動態:2019国民生活基礎調査を用いて」貧困統計 HPより。中卒の場合、30歳代は28.3%、40歳代は38.7%、50歳代は17.4%、60歳代は24.1%、70歳代は31.8%。高卒の場合、30歳代は12.8%、40歳代は14.6%、50歳代は12.3%、60歳代は15.1%、70歳代は21.8%。短大・高専の場合、30歳代は8%、40歳代は11.6%、50歳代は8.8%、60歳代は10.4%、70歳代は12.6%。大学以上の場合、30歳代は6.7%、40歳代は9.7%、50歳代は5.8%、60歳代は6.4%、70歳代は13.9%。

“格差を打破するには
教育”

支援したひとり親家庭の保護者の方からの言葉です。
キッズドア基金は、支援を必要とする家庭とつながり、その声を社会に発信し、
公的支援・民間支援の拡大や受験制度の改革を訴えていきます。